ハローワークで仕事を探していた私は、ある日、求人票一覧のなかに、某官公庁の事務職の求人票を見つけました。

官公庁の求人は、それまでにも数多く見ていました。公務員試験を受けての採用でない場合は、どれもみな、期間の定めがありました。たいていの場合は、一年でした。

私は、「期間の定めのない」仕事を探していましたので、その求人票の次の求人票を見ようとしました。

と、私の目に、「請負」という文字が飛び込みました。

以前、数年間、派遣社員をしていた私は、請負の就業形態に対して、抵抗はありませんでした。

私は目を止めて、もう一度、就業場所を確認しました。

そこは、日本の国が崩壊する最後まで、決して潰れることがない、と思われる官庁でした。

私はそのとき、それまで勤めていた会社の破産によって、失業していました。そんな私にとっては、『こんなところで働きたい』と、思わずつぶやいてしまうほど安定した職場でした。

年齢は、もちろん「不問」です。

「定年制あり、一律65歳」「再雇用あり、一律70歳」「勤務延長あり、一律75歳」。

素晴らしい! の一言です。なんと、75歳まで、働かせてくれるというのです!

私は目をこすって、もう一度、求人票を見ました。

「時給、750円」
『安~い。しかたがないか、潰れることもないし、75歳までいいっていうんだから』

「採用人数、通勤2人」となっています。
『二人か、厳しいなあ。激戦じゃないのかな。無理だわ』、と思いながらも、諦めきれずに、応募しました。

面接当日、会場の受付担当者が言うには、「今日は、36人の面接です」

『こりゃ、ダメだわ』と思う矢先、受付担当者から、
「どの部署を希望するのか、先に、この書類に書いて下さい」
 と言って、書類を渡されました。見ると、いくつかの部署があって、それぞれに(請負会社の)正社員が入るか、パートが入るか、という人数配置が記載されていました。

 私はハローワークから、パートでの紹介状を出してもらっていましたので、パートが配置される部署を見ました。すると三か所あって、人数を数えてみると、合計で13人でした。
 正社員を含めると、15人ほどが採用されるわけです。

『ずいぶん、話が違うけど・・・・・・』と思いながらも、周囲の話し声に耳をそばだてると、どうやら「○○○」という求人広告と、インターネットでの求人を見て、来ている人が多数いるようでした。

 どういうわけがあるにしろ、2人の採用から15人に増えたわけですから、36人の応募者だとすると、2.5人に1人は採用になるのですから、それほど狭き門ではありません。

 それにしても、男性の姿が目立ったのには、驚きました。
 しかし私はまだそのとき、なぜ男性が多いのか、ということや、驚くべき事実には、気が付いていませんでした。

 そして翌日、なんと! 採用を報せる電話が入りました。
 私は喜び勇んで、初出勤しました。

ところが、15人来ると思っていた人が、4人しかいませんでした。と、私の隣にいた人が、私に話しかけてきました。

「いつ、連絡が来ましたか?」

「面接した、次の日です」

「じゃあ、ハローワークで採用になったんですね。私は、昨日の夜、電話がかかってきました。それで、『○○○』から採用になったことにして下さい、って言われました」

『どういうことかしら』と思いまいたが、それから二週間ほどが経ったころ、その人と親しくなっていた私は、その人からこう言われました。

「Mさんも、請負会社の担当の人に頼んで、時給をあげてもらいなさいよ」

「?」

「私たち、『○○○』から来たことになっているから、時給は850円なのよ」

『え~っ!!』

私は、15人の顔を思い浮かべました。年齢が高い人は、私と同じ時給であることをすでに聞いて知っていました。

「『○○○』は求人広告だから、年齢40歳までっていう、条件がついていたんじゃないの?」

いいえ、と彼女は、首を横に振りました。

ハローワークが年齢を「不問」としているので、若い人材が欲しい会社は、求人広告に掲載を頼んで、年齢制限するのです。

翌日、私はハローワークに電話をかけました。そしてハローワークから、「時給を公平にしてくれるように指導して下さい」と頼みました。

ところがハローワークからの返事は、「媒体によって、時給が違うことを知らなかった私が悪い」という内容の言葉を、担当者が言った、というものでした。
翌日、私は担当者に直接、時給をあげてくれるようにと交渉しました。

担当者は私の時給を「○○○」と同じ時給にするかわりに、「時給のなかに、交通費を含む」という条件にする、ということでOKしました。

そのとき、担当者が言った言葉は、いまでも忘れることができません。きっといつまでも、覚えていると思います。

「750円でも、850円でも、たいして違わないでしょう?」

開いた口が、塞がりませんでした。

『あんた、いったい、給料、いくら、もらってんの? 私たちを安い時給で働かせた、上前をはねて』

もし彼女が私に時給のことを黙っていたら、私はずっと、1時間当たり100円の差で、実働1日8時間×20日=16000円(少額の交通費)を、同じ仕事をしながら、勤めていたでしょう。

応募するときは、他の媒体にも目を通してから、一番高い金額がついた媒体から、応募しましょう!