ハローワークで仕事を探していた私は、ある日、十数年前に働いてみたいと思っていた事業所の求人票が出ているのを見つけました。

詳細が記された画面を開いてみると、正社員で時給800円、週休二日、という条件の他に、「経験者に限る」という記載がありました。

募集をかけていたのは、デパートで洋服のリフォームを展開する会社でした。

就業場所を見ると、私の通える範囲内にありました。

私はそれまでに、同業の他社数社で働いたことがありましたので、「経験者に限る」の条件は満たしていました。

年齢があがると目が悪くなりますので、募集要綱には年齢制限がありましたが、私は制限年齢よりも10歳以上若かったので、その条件も満たしていました。

ハローワークの窓口で紹介状を出してもらい、私は店長との面接を受けました。

店長は、50代の男性でした。オーダーメイドとリフォームを30年以上続けてきた、ベテラン職人です。

即決でした。

ただ、「正社員には、すぐにはなれません。仕事を見せてもらってからです」

と言われました。

たいていの会社は、3ヶ月ほどの試用期間があって、さらに半年か一年ほどパートとして勤めて、それから正社員に昇格することが多いので、私は店長の言葉にはなんの不審も持ちませんでした。

そして働き始めましたが、私がライバル会社で働いていたことと、年齢的に一番若いこと、そしてなによりも店長と組んで仕事をすることが理由で、誰も親しくしてはくれませんでした。

全員で10人の職場は、70代が1人、60代が5人、50代が3人と、私が40代でした。

毎日々々、店長が仕事部屋を出ていくや、途端に「待ってました」とばかりに、店長の悪口が始まりました。

まったく洋服のリフォームの業界というのは、60代以上の従業員がいると、どうしてこんなに、隣の席に座る人間の悪口ばかりを言うのでしょうか? 他に考えることは、ないのでしょうか?

私は、隣の席に座る同僚の悪口ばかりを言うこの業界が嫌になって、手に職があるにもかかわらず、この業界にはそれまで二度と戻らなかった人間でしたから、かつての嫌な気持ちをまた思い出してしまいました。

それはともかくとして、勤め始めて3ヶ月ほどが過ぎたころには、私にもようやく会社の事情が見えてきました。

私は、正社員募集の求人票を見て応募しましたが、正社員にはまだなれないパート社員のつもりでいました。しかし実は、会社は私を雇用していなかったのです。

勤め始めて最初に受け取った給与明細で、雇用保険が引かれていなかったので、『おかしいな』とは思ったものの、『ひとつき遅れで、来月から引かれるのかな』と思っていました。

しかし三度目の給与明細にも、雇用保険を引いた記載がなかったので、一番口をききやすい先輩に聞いたところ、

「雇用保険をかけてもらっている人なんて、ここには誰もいないでしょう?」

と言われました。

そうです。私たちは、会社に雇われているのではなく、会社が私たちに仕事を発注して、私たちはその仕事を受けて作業しているだけの、外注業者扱いなのでした。

外注業者だけれども、時給で支払っている、ということです。

正社員を採用する気など、初めから欠片もなかったのです。それどころか、いま時給で支払っている給与を、出来高支払制に変えようとしているのでした。

それならそれで正直に事実を記載して、求人の募集をかければいいのです。

私が以前に勤めていた同業他社は、正直に出来高制の事実を記載して、求人募集をかけていました。ですから応募してくる人は、みんな事情を理解したうえで納得して働きにきていたのでした。

結局、それから半年後に、私は、以前に同業他社を辞めたときと同様に、あまりにも店長の悪口ばかりを言う先輩たちに切れてしまい、その職場を辞めました。

そして数日後、労働基準監督署の門をくぐりました。

嘘八百の求人票を掲載しても、平気な会社もありますし、自社が掲載している求人票のどの箇所が間違っているのかということさえ、わかっていない会社も存在します。

ここでは割愛しますが、求人票が、求職者にとって、どれほど重要なものであるのかということが、まったくわかっていない会社や社長が、存在します。
気をつけましょう。