私は、仕事を探していました。

ハローワークには出かけずに、自宅のパソコンから、ハローワークインターネットサービスに接続して、求人票を見ようとしていました。

「求人情報の種類」の「フルタイム」にチェックを入れ、賃金を10万円以上として、希望する就業地の都道府県を入力し・・・・・・、「検索」フォームをクリックしました。

画面が変わって、求人票一覧が出てきました。

「婦人服の販売」です。

雇用形態/賃金「正社員以外/190.000円」です。

私は、事務職の求人を探していました。

しかしそのとき、恐ろしいくらいに19万円に惹かれました。

販売職は、前に一度、アルバイトでしたことがありました。

私は若いころに、オーダーメイドの婦人服を仕立てる仕事を、しばらくしたことがありましたので、一度だけ、プレタポルテの販売職をしたことがあったのです。

はっきり言って、もう二度としたくはありませんでした。足が痛くて、時間が長く感じられたことが、印象に強く残っていました。

しかし19万円の求人票を見たとき、私の気持ちは揺らぎました。そして、『19万円ももらえるのなら、足が痛いぐらいは我慢しよう』、という結論に達したのです。

19万円は、私にとっては高給です。ということは、『応募者もたくさんいるに違いない』

と思いました。

販売の経験など無いに等しい私が、19万円も支払ってくれるという販売員に、採用されるはずがない、と諦めていた私の想像に反して、私は採用になりました。

「TPO(仮名)」というその婦人服の店は、○○デパートのファッションフロアーにありました。

二人体制でやっていたそうですが、一人が辞めてからは店長だけが残って、店長が休みの日には、派遣社員に応援に来てもらっていたそうです。

私が勤め始めて5日ほどは、店長が仕事を教えながら、一緒に入ってくれていましたが、6日目からはもう、土曜日曜祝日以外は一人体制になりました。
勤め始めて二週間ほどが経ったころ、周囲にある同じような店の販売員の女性スタッフたちから、私がどういう経路で「TPO」に採用になったのか、ということを、入れ代わり立ち代わり、興味津々な態度で聞かれました。

そうして私が知ったことは、「『TPO』は、いつ閉店になるのか、明日の命さえわからない」ということでした。

私は面接ではもちろん、店長からも、そんなことは一言も聞いていませんでした。

そして19万円の謎が解けたのでした。明日の保証もないということです。(そのデパートは、閉店が決まってから実際に撤退するまでには、ひとつきほどの猶予がありました)

がっかりはしましたが、腹は立ちませんでした。私のような未経験に等しい販売員に、店長と同じぐらいの待遇を出そうというのですから。

しかし「TPO」はそれから半年ものあいだ、開店していました。私は、お客様のほとんど来ない店で、19万円×6ヶ月=114万円もの高給を頂きました。ありがとうございました。