以前、コールセンターで働いていたころのことです。

ハローワークの求人票には、3人の募集とありました。窓口で聞いてみたら、

「もう5人ほどが紹介されて、面接を終わっています」

と言われました。しかし私は、紹介を希望しました。

面接を受けたところ、以前にも似たような仕事をしていた履歴が効いたのか、採用になりました。

そのコールセンターには、70人あまりのオペレーターがいました。

通信販売の受注をする業務に就いている人が60人ぐらいで、あとの10人ほどは、保険やカードの受付業務をしていました。すべてインバウンド(電話を受ける仕事)でした。

ちなみにアウトバウンドは、電話アポイントのように、電話をかける業務のことを言います。

私が入社したコールセンターの就業時間は、9:00~21:00で、交代制のシフトが組まれていました。

入社した私は、五日間の研修を受けました。内容は、通信販売の会社のシステムを使えるようになる訓練です。

私を入れて6人の新入社員のうち、研修期間中に3人が辞めました。

コールセンターで一番上司にあたるSV(スーパーバイザー)から、能力が劣るから辞めるようにということで、肩を叩かれたのでした。

SVは、私たちを面接してくれた女性で、40歳の独身女性でした。私と同じ年齢でした。

しかし彼女を見て40歳だと見抜ける人は、なかなかいないと思います。身長150センチぐらいで、全体にスリムなところへ、胸はぺッチャンコ、顔は、アイドルのコンテストで最終予選には残ったけれども、可愛さがたりないということで落ちたような童顔ですから、年齢はわからない、というのが、おおかたの人の答えだと思います。

そういうSVに肩を叩かれたうちの一人は、「なによ、あのチ○、私に能力がないのではなくて、会社の教え方が悪いからよ。ハローワークに、訴えてやるわ」と言って辞めていきました。

残った私たち3人は、研修期間を無事に終えると、業務のシフトに組み込まれました。

それから半月ほどが経ったころ、今度は10人ほどの新入社員が入ってきました。

コールセンターのオペレーターのうち、その半月のうちに何人が辞めていったのかということは、人数が多すぎてわかりませんでしたが、コールセンターが、どこかの会社に就職するまでのあいだの腰掛椅子になっていることだけは、明らかでした。

そのさらに半月後には、また10人ほどの新入社員が入ってきました。

・・・・・・それは、私が入社して、半月あまりが経ったころのことです。

その日の私の勤務時間は、9:00からでした。

コールセンターに就職する前に私が勤めていた会社の勤務時間は、10時からでした。

なにをボケたのか、私は、コールセンターの出勤時間を、10時と間違えてしまったのです。お弁当を作りながら、『どうして今日はこんなに、ゆったりとした時間が、とれるのかしら』などと思っていたのでした。

そしてお弁当を作り終えて、朝食もすませたころに、出勤時間は9時だったことを思い出したのです。

時計を見ると、8時45分でした。

自家用車で片道25分かかるコールセンターまで、いまからだと化粧をしないで走っても、15分の遅刻になります。

私はすぐに、コールセンターに電話をかけました。「急用ができてしまったので、15分ほど、遅刻します」と。

連絡したとおりに15分の遅刻をしてしまった私は、やがてその日のフルタイムの仕事を終えました。

そして、退社時にSVに提出することになっている出勤簿を、「お疲れ様でした」と言って、SVに差し出したときのことです。いきなり、

「○○さん、あなた、今日、遅刻したでしょう」

噛みつくように言われました。

「はい、すいませんでした」

「あたしはねえ、遅刻だけは、我慢できないのよ! ほかのことは少々、我慢できても、遅刻だけは、絶対に、許せないのよ!」

私より15センチも低い位置にある頭のてっぺんから、わめくような声が投げつけられてきました。

「すいません。だから15分前に、電話で連絡をしました」

「連絡したら、遅刻してもかまわない、とでも、思っているの?」

「いいえ」

私はもう、たじたじで答えました。

「その歯、照れ隠しの笑いでしょうけど、あたしは舐められてるみたいで、我慢できないのよ!」

そういわれても、私は前歯が大きくて唇の前に出ていますので、隠すことは難しいのです。

『これはもしかして、日ごろから、私のことが気に入らなかったのかしら』

そのあとのSVから投げつけられた言葉の数々は、覚えていません。気が付いたら、私の頬には、涙がぼうぼうと流れていました。

悔しかったのです。そこまで言われるまでのことをして、なにひとつ弁明できない立場の自分が。

翌日、いつも通りに出勤しました。そして休憩時間、私の周囲のあちらこちらから、こんな会話が聞こえてきました。言っているのは、みんなSVと同じ、正社員の人たちでした。

「きのう、未熟児がさあ、またヒス(ヒステリー)起こしたんだって!」「いい気味じゃないの」「もっと、いちびってやればいいのよ」「ホレ、怒れ! 怒れ! 未熟児、もっと怒れ!」「あははははは・・・・・・」

どの会話も、まるで私に聞こえるようにと、大きな声で言っているようでした。

私は、みんなの気持ちが嬉しくて、また涙があふれてきました。そうです、みんなは、わざと私に聞こえるように、そして私の代わりに、SVの悪口を言ってくれていたのです。

しかし職場でトップの人間から嫌われてしまっては、もう武器を持たない兵士と一緒です。理由もわからないまま、勤務時間がどんどん削られてゆき、ついには私の口から、

「これではやっていけませんので、辞めさせて下さい」と言わざるをえませんでした。

女のヒステリー、どうしようもないと思いますが、ヒステリー持ちには、近づかないことです。