三ヶ月の臨時社員の雇用期間が切れた私は、ハローワークで仕事を探していました。

フルタイムの事務職であれば、正社員でもパートでもよかったのですが、今夜はクリスマスイブという、年末をすぐそこに控えた時期が悪かったのか、思うような募集が見当たりませんでした。

しかし一日も早く仕事に就きたかった私は、求人票一覧のページを、次々と繰っていきました。

「○○事務」という熟語を選びながら求人票を見る私の目に、「WW農園」という事業所名が飛び込みました。

実は、私の趣味は、園芸だったのです。小学校のころから始めて、「この趣味40年」の筋金入りです。

10秒ほど考えた私は、WW農園の求人票を、紹介窓口へ持っていきました。

その日のうちに面接を受け、「今日は、クリスマスイブだから」という社長のメッセージつきで、「採用」というプレゼントをもらいました。

年が明けて、農園の仕事に出た私は、5分後にはもう、後悔し始めました。

寒いのなんのって!

その日の作業は、「接(つ)ぎ木」でした。

野菜の苗が、病原菌に負けないために、抗体を持つ苗(台木)に、抗体を待たないが優れた実がなる苗(穂木)を接いで、一本の新しい苗を作る作業でした。

従業員6人全員の、各自の足元に電気ストーブが置いてありましたが、作業小屋は、屋根がおそろしく高くて、だだっ広く、屋根にも壁にも断熱材が入っていないので、呼吸する息が真っ白に見えます。

その上、生きた苗を切断して、そこに別の生きた苗を接ぐので、どちらの苗も水につけてありますから、指先が凍傷になるかと思うほど凍えるのです。

さらにトイレは仮設のトイレですので、いままで整備された事務所などでしか働いたことのない私は、なんだかみじめになってきました。

でも、やっぱり、植物が好きなんでしょう。なんとか二か月が過ぎました。

今度は、花の苗の出荷です。ビニールハウスでの作業になりました。

パンジー、ビオラ、ジュリアン、桜草、芝桜などなど、可愛い花が、広いビニールハウス何棟もに、いっせいに開いています。いい香りが、ハウス一面に広がっています。

外は雪が舞っているのに、ハウスの中は春真っ盛りです。

作業小屋では、足元にストーブを置いても凍えていたのに、ハウスでの作業は、半袖のTシャツ一枚でも、暑いくらいです。

それはそれは、楽しい毎日でした。こんな農園を経営することができたら、毎日がどんなに楽しいだろう、私もなんとかお金を貯めて、花でいっぱいになったビニールハウスのある農園を経営したい、と本気で考えるようになりました。

ところが、外に雪が舞う二月の下旬に、半袖でも暑かったハウスの中は、それからひとつき経った三月の下旬には、暑くて暑くて汗が流れてきました。

そして数日後の、四月の初め。

私は、暑さに負けて、倒れてしまいました。

かかりつけの医師に診てもらうと、「もともと体が弱いのですから、ハウスの仕事のように、急激な温度差のある仕事は、無理ですな」と言われました。

いまでもパンジーやビオラ、ジュリアンの花を見るたびに思い出します。

花でいっぱいになったビニールハウスのある農園を、経営したいな、と。

趣味と仕事は違います。

趣味は、自分の好きなことだけをやっていればいいのですが、仕事となると、手が凍えるような思いに堪えながら続けなければいけませんし、熱帯のように暑い中で汗みずくになって、働かなければなりません。