私は以前、デパートで洋服のリフォームの仕事をしていました。

デパートなどで服を買ってサイズがあわなかったときなどに、ウエストの寸法を少し小さくしてもらうとか、シングル仕上げのパンツの裾をダブル仕上げに変えてもらうとか、そういうサイズ直しがメインの仕事でした。

私は若いときに洋裁を長いあいだ習っていて、洋裁教諭一級助という免許状をもっていましたから、リフォームの仕事は、オーダーメイドの仕事のつぶしのようなものでした。

昔は、洋裁をしたり、ミシンを踏んで自分の服を縫ったり、身の回りの小物を作る女性が多くいましたが、いまはミシンを踏む女性があまりいなくなりました。

そういう時代の状況が手伝って、洋服のリフォームの職場でリフォームを務めるのは、5人の女性たちでした。5人のうち2人が60代で、2人が50代、残る私が1人だけ34歳、という年齢でした。

店長は営業職で、24歳の女性でした。

仕事中、60代の2人と50代の2人が交わす会話のほとんどは、自分たちの周囲にいる人たちの悪口でした。

たとえば1人がトイレに行くために、仕事場から出て行ったとします。すると残る3人は、いっせいに席を立った人の悪口を言い始めます。そして帰ってきたら、ピタッ! と口を閉じます。

しばらくして、別の1人が席を立っても、同じことです。

『さっきまでAさんと一緒に、Bさんの悪口を言っていた人が、よくも白々しく、今度はBさんと一緒になって、Aさんの悪口が言えるもんだわ』と私は毎日々々、心のなかで呆れながら、そして軽蔑しながら、そしてなによりも腹を立てながら、先輩たちの会話を聞いていました。もちろん、私がその会話に加わることはありません。私は、陰で人の悪口を言う人のことが、大ッ嫌いですから。

私がそのデパートに配置された理由は、会社の移動辞令によるものでしたが、そのデパートに移る前にいたデパートの仕事場も、同じようなものでした。会話のほとんどは、自分たちの周囲にいる人間の悪口でした。私はいつも、耳をふさぐようにして、針を動かしていました。

幸い、どちらの仕事場でも、私は先輩たちとは歳が離れているせいか、先輩たちは私の姿がまるで見えないかのように、いつもいつも同僚の悪口に夢中になっていました。

ところが、誰も席を立っていない状態のとき、4人の先輩たちは、しばしば24歳の店長の悪口を言いました。それはたとえば、先輩たちの息子の嫁になぞらえた悪口だったりしましたので、34歳の私の耳には、まるで私に対する、あてつけがましい悪口に聞こえました。

先輩たちはもちろん、店長の顔を見ると、晴れ晴れとした笑みを浮かべて、『そんなおべんちゃらが、よくも言えるものだわ。自分のやってることが、恥ずかしくないのかしら』といわんばかりのお世辞を並べます。

毎日々々がそれですから、私の心のなかでは、先輩たちに対する不満が、日に日に大きく膨らんでいってしまっていたのです。

先輩たちのそういう態度が見えていたのか、店長は会社に対して、他のデパートへの移動を願い出ました。しかし会社からは、なかなか返事がありませんでした。

そんなある日、店長の悪口を言ったあげくに、「・・・・・・ねえ、いまどきの若い人はねえ」と、店長を馬鹿にしつくした笑い声を弾かせた先輩たちに、ついに私は切れてしまいました。

ハサミを握りしめて「いい加減にして下さい!」、と金切り声をあげたまでは覚えていますが、そのあと先輩たちに対してなんと言ったのかは、覚えていません。

とにかくそれ以来、先輩たちと気まずくなってしまった私は、まもなくその会社を退職しました。

「陰で人の悪口ばかりを言う人間が許せなかった」、そういう妙な正義感が、私にひとつの職場を失わせました。