大きな会社では、まずないと思いますが、小さな支店や、50人規模ほどの会社の場合にはあります。上司と「男女の関係にある」社員です。

ちなみに私の友人の女性は、東証一部上場の企業で、不倫関係にあった上司が冷たい態度に変わったために、職場で顔を見るのが辛くなったので、希望退職しましたが、退職後、本社に情事を暴露して、不倫相手の上司を左遷させました。

一口に「上司との不倫」と言っても、さまざまなケースがありますから、もちろん応援してあげたいケースもあります。そういうケースの男女は、常識をわきまえた「まとも」な人間ですから、自分たちの感情を、仕事という公に持ち込むことはありません。

私がそういう上司に、職場で出会ってしまったことは(もちろん私が知らないだけで、社員の誰かとデキテル上司は、何人かいたかもしれませんが)、二度あります。

どちらのケースも、気の強い女性で、「権力を持ちたい」タイプでした。

そういう女性が上司とデキテしまうと、どうしても周囲の目にばれてしまいます。「あの二人はおかしい」と。

するとその二人に、もしくはその女性に対して、反発する女性社員が出てきます。

そして、女の派閥に発展したりします。

私が出会ってしまったひとつのケースは事務職で、もうひとつのケースは技術職でした。どちらのケースも、デキタ女性に対する反発は強かったのですが、表だって反発の意思を見せると、首を切られてしまいますので、陰にまわってのそしり(誹謗)になります。

私が被害を受けたのは、ある婦人服を企画販売している会社でのことでした。

私は、できあがった婦人服に必要な補修があった場合、補修する社員として、採用になりました。勤務場所は、「補修室」でした。

入社当日、補修室のチーフは休みでした。その日、さっそく遅くまで仕事をしていた私に、優しい声をかけてくれた女性社員がいました。事務職の、50代のベテラン社員Aさんでした。Aさんは、補修室にある商品の伝票を確かめるために、来たのでした。私はAさんに、掃除道具などがどこにあるのか、ということを尋ねました。

次の日、出勤すると、補修室のチーフが出勤してきました。

私は前日に、Aさんが励ましの声をかけてくれたことを、チーフに話しました。

チーフは、その話を不快そうな表情で聞いたあと、「わからないことがあったら、私に聞いて下さい。Aさんは、事務職だから、補修室とは関係ないから」と言いました。

その話し方を聞いたとき、いままでこのタイプの女性で、さんざん苦労してきている私は、「またか、もううんざり」と感じました。

こういう人は、よくいるのです。自分が(チーフのこと)休んでいたから、新入社員の私が、掃除道具がどこにあるのかわからなかったので、たまたま補修室に来たAさんに聞いたのに、自分が休んでいたということに関しては、ひとことも触れない人。こういうタイプではない人は、必ずこう言います。「昨日は、たまたま私が休んでいたから、あなたにもわからないことがあったでしょう。ごめんなさい」と。

Aさんはそれからも、チーフが休みの日には、補修室に来て話しをするようになりました。

補修室には、補修するためのミシンやアイロンが置かれていましたが、それまでデパートのリフォーム室で勤めていた経験のある私からみると、「こんなミシンで、よくも仕事ができるものだ」というほど、手入れのされていない、オンボロミシンでした。アイロンも、スチームが正常にスチームにならない、欠陥アイロンでした。私が家で使っているミシンやアイロンのほうが、はるかに業務用として最適でした。

Aさんから聞いた話では、チーフはそれまで洋服の補修などの経験はなく、支店長に命じられて初めてその補修室で、それまでいたベテランの職人Bさんから教えてもらって、婦人服の補修を始めたそうでした。

「支店長に命じられたんじゃなくて、チーフが自分から頼んだのよ。ひとりで仕事をしている方が、好きなことをしていられるから。チーフは、支店長のコレよ」
Aさんは、小指を立てました。

「だから、気をつけなさいよ。ここのミシンやアイロン、こんなもの、仕事で使うようなシロモノじゃないでしょう? あのチーフは、ここしか知らないから、こんなボロミシンでも、平気なのよ」

Bさんと仲のよかったAさんは、顔をしかめて言いました。

「Bさんは、あのチーフに、追い出されたのよ。仕事だけ、教えてもらったら、あとは邪魔だから。Bさんのチャコ(布地用の鉛筆のようなもの)に、『死ね!』って、書かれていたんだって。そういうことが、何回もあったのよ」

Aさんが事務職から補修室に移された理由は、支店長がBさんを辞めさせたかったからだそうですが、仕立ての基礎知識がまったくないAさんだけがいても、仕事ができる状態ではなかったので、私が採用されたそうでした。

私は、洋裁の教諭免許を持っていましたので、仕事の上では、Aさんにとやかくいわれることはなにもありませんでした。オンボロのミシンやアイロンに我慢して、補修を続けていましたが、ついにアイロンが、商品にシミをつくるぐらいに、水を出すようになりました。

 チーフを通じて支店長に頼んだところ、Aさんは、

「修理に出すのは構わないけれど、そのあいだの代わりのアイロンがない」

ということでした。

「代わりのアイロンは、メーカーに言えば、貸してくれます」

 と私が言うと、Aさんはおもしろくなさそうな顔をして、

「でも、お金がかかるでしょう?」

と、わけのわからないことを言います。

「ここは、会社でしょう? 商品にシミがついたら、それこそ売り物にならないでしょう?」

不快な表情で黙るチーフに、私は、

「私のアイロンを、持って来ます」と言いました。

「支店長に聞いてみます」

と言われたきり、数日たっても返事がありません。

私は、チーフが休みの日に、支店長に直々に、アイロンの修理のことを頼みました。

これが、決定打でした。場外ホームランです。

チーフは、仕事中、私とまったく会話をしようとしません。

私がくるまでにチーフができなかった仕事をいくつか教えましたので、もう私にも用はないのでしょう。自分より仕事ができる人間は、おもしろくないのです。

私は、辞めました。